萱野茂さんの言葉 (1926〜2006)
いまの日本やアメリカやカナダの生活はまるで
天国のような素晴らしいものですが、しかしそれは
非常に危うい社会です。日本ではいまなお原子力
発電所を次々と作ってはいますが、あれはトイレ
のないマンションを作っているようなものです。
終末処理も全くできていないのに、次々と原発の
建設を続けているんですから、これは天に向かっ
て唾を吐いているようなものでしょう。
その唾が私をも含めて自分の顔に落ちて
こないことを願ってはいるけれども、しかし何の
保証もない。
だから考えなければならないんです。
30年40年前の暮らしに戻ることをね。
電気はこれ以上に明るくならなくてもいい。
そういうことをいま本気で考えなければならない
ときだと思います。
この地球を先祖から預かって、子孫に対して
無傷で渡さなければならないのに、自然の
破壊ぶりはもう無茶苦茶ですよ。
傷だらけどころではなく、もはや瀕死の重傷
です。
私がまだ子供のころのことですが、ある日突然
お巡りさんが靴も脱がずに家の中に入ってきて、
父を逮捕しました。
そのとき父は板の間にひれ伏して、
「はい、行きます」と言ったまま顔を上げない。
どうしたことかと思って黙ってそばで見ていたら、
板の間にポタポタ大粒の涙が落ちるんですよ。
父は昔ケガをして右目がダメになっていたのに、
その目玉のないほうからも涙が落ちているん
です。逮捕されたのはサケを獲ってきて家族に
食べさせたからです。
私はこれまでに24回ほどパスポートが必要な
旅をしていろんな少数民族の方々に会ってきま
したが、主食まで奪われた民族に出会ったことは
まだ一度もありません。ということは、日本ほど
先住少数民族の権利を平気で奪った国はない。
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