話は飛びますが、実はカメラを片手に、山野を歩きながらエンレイソウを探しつつ、もう一方で、私の頭は「種の起源」や、人間の間における先住民族と大陸移動してくる他民族との出会い、交流、混合の歴史に焦点を合わせていました。生物は、植物は、そして人類やその民族はどのように出会い、そして進化してきたのか。全くの門外漢でありながら、その自分の思考のパターンというか、その関連付けが我ながら面白く、険しい山歩きの楽しみの一つとなりました。例えば、昔あこがれたシルクロードの拠点の町々や、マレーシアの港湾都市マラッカの多民族が行き交い共存する姿が浮かんでは消えて行きました。
話をエンレイソウに戻しますが、
まず、単にエンレイソウと呼ばれる種類は、花弁がなくがく片だけのものを指します。がく片の色は、薄い緑がかったもの、あずき色に近いもの、その中間のものやストライプ状になったもので、子房(のちに実になる部分)の色が赤いもの、黒いもの、緑がかったもの、もしくはクリーム色のものがあり、それぞれアカミノエンレイソウ、クロミノエンレイソウ、アオミノエンレイソウと呼ばれます。
白い花弁(花びら)を付けるのは、ミヤマエンレイソウ、オオバナノエンレイソウ、シラオイエンレイソウ、カワユエンレイソウ、そしてチシマエンレイソウですが、そのうちミヤマエンレイソウだけが、花弁も雌しべ(子房)も雄しべ(葯)も全てが真っ白でやや横向きに咲きます。より深い山や高山帯に咲き、あまり株立ちをしていないようです。チシマエンレイソウは子房が真っ黒なので識別が容易です。
それ以外の3種は子房に暗紫色の斑点があります。その中で上向きで、花弁ががく片よりだいぶ長く細長い印象のものがオオバナノエンレイソウで、葯がかなり長めです。
シラオイエンレイソウは、ミヤマエンレイソウとオオバナノエンレイソウとの自然交雑種とされていましたが、最近はムラサキエンレイソウとエゾミヤマエンレイソウとの自然交雑種という説もあるようです。実際に、シラオイエンレイソウの群落付近に、オオバナノエンレイソウが見られないという報告が多々あるようです。私もそれは感じてきましたが・・・。このシラオイエンレイソウの同定のポイントは、花弁も三枚の葉も共に波打ってフリルのようになっているものが多い点です。そして親と同じように花が横向きです。
その次は、赤い花弁をつけるコジマエンレイソウ、ヒダカエンレイソウ、そしてトカチエンレイソウです。コジマエンレイソウは道南の渡島小島での発見に由来した名で、道南の海岸線に沿って分布している場合が多いようです。道南エリアにはこの群生地が所どころにありますが、まるで園芸種のように華やかで美しい花ぞろいです。コジマエンレイソウはオオバナノエンレイソウと花弁のないエンレイソウとの自然交雑種、それとよく似たヒダカエンレイソウは、ミヤマエンレイソウとエンレイソウとの自然交雑種といわれます。
コジマエンレイソウは親のオオバナノエンレイソウ同様に、上向きで首筋をシャンと伸ばし肩を落とした感じがします。そしてヒダカエンレイソウの方は、首がうつむき加減で、葉が肩に大きく被さったような野性味があります。トカチエンレイソウは、所在不明で(?)今の所、出会えそうにありません。一説には、稔性がないため、繁殖しないので、きわめて少ないとのこと。ちなみに「稔性」とは、有性生殖が可能であること。交配に親和性があり、受精して子孫を作れることです。これもまたオオバナノエンレイソウとエンレイソウとの自然交雑種で、コジマエンレイソウと花の色その他の特徴が良く似ているそうです。
・・・ということは、トカチエンレイソウの同定のポイントは、オオバナノエンレイソウとエンレイソウが混在するエリアに、ポツリポツリと点在するように咲く、赤い花弁のエンレイソウで、群落をつくらず、しかもコジマエンレイソウに面影が似ている花ということでしょうか。
・・・2011年も6月に入り、そろそろエンレイソウは花が落ちて、実をつけ始めました。
残りはカワユエンレイソウとトカチエンレイソウを残すのみとなりましたが、今年のエンレイソウ・ハンティングは、これでお終いにしようと思います。楽しみは来年に…ということで!
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